くしゃり、草を踏みしめる。両足を揃える。
右足を踏み出す、草が揺れる。少し遠くに左足を出す、花が揺れる。
くるり、まわりながら右足を出す。スカートが揺れる。
流れで左足を付ける。ふわり、髪が揺れる。
締めた脇を緩める。両手が揺れる。
頭の中で歌を歌う。草花の絨毯が歌う。
頭上から声をかけられる。「お前もそういう顔するんだな」
「……っ!!」
いるとは思っていなかったところから声が聞こえてフェーリは振り返り表情を強張らせる。
空には誰もいないと思っていたが、まさか木の上に誰かいるとは。
こんな森の先の広場に足を踏み入れるものなどいないと思っていたが。
「何でいるのよ……闇の魔導師」
「昼寝」
言いながらその闇の魔導師は木の上からすとんと降りてくる。この気温に似つかわしくない黒いマントをふわりと流して着地したそれは、緩慢だが重くはない動作で身体を起こす。
一歩後ろに下がったフェーリを一瞥、それから欠伸をひとつ。
もう一度見下ろして口を開く。
「なに、か用…?」
「いや、人の気配がしたから起きた。ら、お前がいただけだ」
「そう」
ならばタイミングが悪い。どちらが、というわけではないが。
昼寝を起こされた彼の方か、起こしてしまった彼女の方か。
どのみちどちらもタイミングが悪い。それだけだ、それだけだが。
「見たの……?」
「何を?」
「さっきの」
震える声で言われてああ、とシェゾがひとつ。
さっきの、とはこの広場で先ほどくるくると回っていた黒い影のことか。
もっと正確に言うと黒い影とは目の前の少女のことで、くるくるとしていたあれは。
「ワルツのステップだろ、さっきの」
「見たのね…!!」
フェーリにしてみれば何たる屈辱だ。
確かに先ほど踏んでいたのはそのステップであるのだが別にこいつに見せるために踏んでいたわけではない。あれは。あれはもっと大事な。
それを知ってから知らずか、しかし目の前の彼はからかうでもなく褒めるでもなく眠そうに眼を細めるだけだった。
「……普段からああいう顔してればもっと可愛いだろうに」
「あ、あなたに言われても嬉しくないのよ!!」
「へいへい、失礼しました」
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