「私たちずっと友達でいようね」なんてのは友達が少ないやつがいうセリフであって、たとえば彼女のように普通に友人を作るのに手慣れているものが言うセリフではないと思ったが。
見慣れたはずの栗色の髪の束をふさりと揺らし、こちらに手を振った彼女を見る自分の目が、どことなく冷ややかだったことを、多少なりとも自覚はしていた。
ルルーは海色の髪を一度だけ片手で流してから、自分よりも一回り小さい少女から視線を外す。
彼女は少し困ったように笑いながらルルーの隣に駆け寄った。彼女がこの顔をするとき、言うことは大抵決まっている。今日はこれから何を言い出すつもり、なのだろう。
またあの変態のことだろうか。
それとも。
「聞いてよルルー、シェゾったらさ」
一呼吸置いてから出た名前に、少し、ホッとしている自分がいた。
「なぁに、今度はどうしたの」
どうせたわいもない話である。やれ誰にお前が欲しいと言っていただ、やれ自分に変なことを言い出しただ。
ここのところアルルが言うことはだいたい決まっている。
この変態のことか、ルルーの愛しい魔王様のこと。
最初その件の魔王の話が彼女、アルルの口から出た時は正直何の嫌味かと思った。自分は彼に思いを寄せている立場であり、アルルはその彼から思いを寄せられている立場である。
だが、それも数日聞いていると慣れてくる。
否、慣れを通り越して。
「ほんっと、かわらないよねぇ」
うっかりほとんど彼女の話を聞いていなかったが、ルルーはその言葉に一瞬意識を引き戻した。
そう、ここのところ彼女はいやに頻繁にこの言葉を使う。そう、それが、慣れを通り越して感じる違和感だ。
これではまるで、かわらないことを確認するために言葉にしている、ような。
「あんたは、……変ったわよね」
うっかりもれた言葉に少女が眼を見開いたこと、それが少し意外だった。
それから彼女は少し時間をかけて視線を下ろし、瞬きをして、瞳を細めて。
「キミに気付いてもらえるとは、うれしいよ、ルルー」
ただ、その言葉にどういう意味があったのか、それの確認はしなかった。
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