それを見つけたのは、実のところ偶然。
――――――ではなかった。
明確な血の匂い。精霊がざわめいている。
サタンは一歩踏み出した。
ここは自分の城からさほど離れていない。言うなればサタンの管理領域内である。
その中での不自然な魔力の動きを見止めて、サタンはその場へ確認のために足を伸ばしたのだ。
わざわざ。
自分から。
この領域内で血の匂いを漂わせるなど、何かの事故か。
それとも。
その答えは、意外とあからさまに、明確に、分かりやすく、転がっていた。

声をかければそれは返事こそしなかったものの微かな呼吸と共にこちらに視線を送った。
返事は、しなかったのではなく出来なかったのかもしれない。
それの喉が動いたときに出てきたのは、言葉ではなく紅い色だったから。
助けようか、否か。一瞬迷う。
その地面を染めている血の量から察するに、これは既に致死量だ。
いくら不死であるとはいえこの状態では動けるようになるまでに幾許か時間を必要とするだろう。
だが、意識はある。
これは元来助けというものを必要としないものだから、というか、助けようものなら末代まで呪うような視線をこちらに向けてくる。(とはいえ彼が自分の末代まで呪うことなど到底不可能なのだが)
余計なお世話かと考えながらそれの傷の様子を見送った。
ひとまずすぐに死ぬような状況ではないようだ。
ならば放っておいていいだろう。意識が落ちたら城まで運んでやればいい。
そう、どのみち、自分がここにいると知ったのなら彼の意識が閉じるのも時間の問題だろう。
これはそれでいて己の身を守る術を知っている。
というか、「安全な状況」を知っている。「こういう状況」で「この場」に「サタンがいる」、その事実がどれだけ安全な状態であるのかということを、彼は無意識のうちに知っているのだろう。本人に言うと否定をするが。
「随分と手ひどくやられたようだな、まったく情けない」
それを知って、サタンは特に意味も無く彼を嘲笑する言葉を投げる。
この場にいてやるから、さっさと意識を手放してしまえ。
サタンは一度だけシェゾを見ると、視線を空に投げて笑った。
ここにコレが転がっている理由は、簡単で明確だった。
先でも表したがここは自分の城からさほど離れていない。言うなればサタンの管理領域内である。
その中でこれが凄惨に死にかけている。
壮絶に死にかけている。
ただ不思議なことに、その顔には傷一つついていないのだ。
まるで本人を確定して下さいといわんばかりに。
(さて、どこのどいつか知らないが、この私に宣戦布告とは大した奴だ)
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