「僕はそんなに強くない、よ」
青い空を瞳に移しこんだ少女の瞳はそう太陽のようだった。太陽が青い空を包み込むように瞳に強い光を宿した少女はそれでも自分は強くないとただそれだけ囁いた。
「ただ、譲りたくなかっただけだ」
風がほほをなでても彼女はただ空を見上げていた、空は晴れていた。青かった。どこまでも青かった。
その空を見上げながら少女はただ眼を細めて静かに静かにほほ笑んだ。
いつも突き抜けるように笑う彼女にしたら珍しかったかもしれない。けれどその笑顔はどこまでも自然だった。
一歩踏み出す。少女の足は確かに地面を踏む。
まっすぐに見つめる。少女の顔は確かに。
すべてにおいて彼女の行動は「確か」だった。そんな何かが彼女にはあった。誰をも引き付ける魅力、確かなもの。それらすべてを持ってして、少女は。
「ねぇ、サタン」
振り返り歌うように彼女はその名前を呼んだ。言われた青年は視線を彼女に移す。まぶしい、と、思った。
少女の、すべてが。
「僕は、君が言うほどそんなに強くはないよ」
もう一度そう言って少女は笑った、小さく、小さく。
すこし困ったような笑顔がかわいらしく、それでもその言葉の奥にはかわいらしさとは違う別のものが含まれていたことに、言われた青年、サタンは気づけないほど愚かではなかった。
「アルル」
「僕はね、ただ、他の人より少しだけ踏ん張れただけなんだと思う」
「…アルル」
「負けたくない、そう思っていただけだよ」
サタンはかける言葉を見失う。少女が言いたいことはなんとなくわかっていたが、言いたい理由がわからなかった。
ねぇわかる?少女はつぶやいた。少女の言葉はどこまでも少女のままだった。ただ他の人より少しだけ踏ん張ることができた少女が差し出してきた腕は細かった。サタンのものよりはるかに。
握れば折れてしまうほどに。だが、だからなんだというのだ。そんなのこの少女に限ったことではない。
サタンは、他の人より優れた肉体を所持していた。
アルルは、他の人より食いしばれる精神を所持していた。
それでも少女はつぶやいた。
「僕はそんなに強くない。けれど君もそんなに強くない、そして彼もそんなに強くない、さらに彼女もそんなに強くない、つまり誰もそんなに強くない」
だから、ねぇ。
少女は笑う。どこまでも少女のままで。それでもその言葉には確かな重みがあった。
「特別な人なんてどこにもいないんだよ」
少女が言うには余りに悟った言葉。
それでも少女は少女だった。ただの。
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どこもエイプリルフールくさくなりませんでした。おかしいな。
「自分に嘘を吐く」をテーマにしようとしたんですけどね。サタアルと見せかけてARSSです。
アルルは特別じゃないことを望んでいる女の子だといいと思います。
良くも悪くも特別な人なんていないんだと思います。自分だけ、なんてことはないんだよ。
エイプリルフールどこ行ったほんとにもう。
リベンジするには時間がなさすぎました。合掌。
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