去年のバレンタイン用にと書いていたバレンタイン10題、間にあわなくてお倉入りしたのを救済しようかと思ったんですが、このままで行くと今年も間にあわないのが目に見えていたので、出来あがっているのだけさっさと救済してしまおうと思いました。
ちなみにお題配布元さんは既に閉鎖されていますorz
順番はお題にあてはめたCPをお題番号順に書いたので適当です。
いつもより糖度2割増。
ということで追記よりどうぞ。
「溺愛で10のお題」
「はい、あげる」
「なんだ?」
「チョコだよ、バレンタイン」
「チョコって…お前もか」
そういって受け取ったシェゾにアルルはああやっぱりと、思った。
実は最近気付いたことがある。
彼が傍目には美形で勝ち組なのは言うまでもないが、欠点とも思えた失言も、実際のところよくよく考えてみると彼のそれは許される範囲内なのだということ。
元々多くを語る方ではない。口を開かなければ失言もない。今までこそみんなにからかわれてきていたが、実際問題として、彼は。
「………シェゾ、それは」
「もらった」
アルルはアルルの渡したそれと他に可愛らしい包みを持っていた彼を見て思い知った。
こちらの世界の人は彼をよく知らない。というよりは、レムレスという一種の広告塔と共にいることが多いため、彼のことは中途半端に知られている。
つまり、こちらの世界で、かの闇の魔導師は、美形で優秀な魔導師として認知されているのだ。
あろうことか。
レムレスという有名人といれば当然視線は自然と集まる。集まった先の相手が美形なら当然。
ファンみたいな存在が出来るのは当たり前だった。
アルルはため息をひとつ。
「君さ…今日が…何の日か…」
「あ?」
「知らないよね…」
アルルはもう一度ため息をひとつ。彼がこの行事を知っているとは思えなかった。
聞くところによれば彼は男子校出身だ。というよりそもそも、彼が学生だった時代にこの風習はなかったと思うのだ。
せいぜい出てきて100年前。齢180でかつイベントごとに無頓着な彼が認識しているとは。
……基本引きこもりだし。
………故に世間知らずだし。
だからおそらく彼は何も知らずにこの包みを受け取っている。ましてや食べ物だ。食べられる物がただでもらえるなら断る道理は彼の中に存在しない。たとえ甘い物があまり好きではなかったとしても。
アルルはため息を飲み込んだ。ここで自分が落ち込む道理も無いはずなのだが、それでも、どうしても。
いやだったのだ。なんとなく。
自分の見知った彼が自分のしらない誰かに慕われている、それだけのことが。
それだけだけれど。
きっと彼はしらない。今日という日が持つ意味も、アルルのこんな葛藤も。
シェゾはアルルの葛藤をよそに、手に持った包みをいつものように空間にしまった。
あの空間のなかにどれほどの数包みがあるのかをアルルは知らない。
「はぁあ、しかし、君みたいな変態でももらえちゃうんだねぇ」
嫌みのつもりで言った言葉が伝わったかどうかはしらない。
バレンタインの行事を理解していない以上は無意味だろうが。
しかしシェゾは文句か何か言いかけて口を閉じ、小さくアルルの髪を掬うと目を細めた。
「……っていうか俺はチョコなんぞよりお前が欲しいんだが」
「……意味、わかって言ってる?」
「一応」
言って離して踵を返す。彼の引き際の良さに珍しくアルルが焦った。
彼が機嫌を悪くしたのは明らかだ。
多分気を悪くさせたのは先程の言葉。
迂闊だった。
彼が包みを受け取っている以上そこに誰かしらとのやりとりがあったのは必須だが、元々彼は他人との交流を良しとしない人物だったではないか。そんな今の彼に嫌みなんて言ったら。
「ま、シェゾ!!」
アルルが慌ててシェゾの背中を追う。
引き止められたシェゾが明らかに不快をにじませた目でこちらを見てくる。
どうしよう、何か言わなければ。
引き止めたものの何も言う言葉を考えていなかったアルルが視線を泳がせてから口を開く。
「き、君に魔力はあげられないけど」
探るように言ってから視線をシェゾに合わせた。
「相手くらいならいつでもしてあげるよ!」
「…なんだそりゃ」
言いながらあきれたように言いつつもシェゾが鼻を鳴らして笑うので、とりあえず機嫌だけは拾えたらしいということをアルルは見止めて笑った。
感謝してよねと言えばシェゾが片手を挙げた。
それを見送って、アルルがため息。
結局彼はアルルの葛藤を知っているのか知らないでいるのかよく分からなかったけれど、まぁ。
チョコレートを受け取ってもらっただけでもよしとすることにした。
「本当、君を愛すのが僕だけならよかったのにね」
アルルの小さな呟きは、誰にともなく空気に溶けた。
(君の患いもぼくの憂いもそうしたら全部なくなるのに)
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うちのシェアルはどうも甘くならないのは何故だろう。
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