完全続き物。5回くらいで終わらせたい。
グリヘドグリと見せかけて15%タフネスまもの強化話。時々ロック。
人選は単に書いた人がグリヘド好きなだけです。
予想以上に長くなったので小分けしながらリク消化とともに流します。
自分設定すごいです。
追記からどうぞ。
死神の眼①
(突如何かを予言する、彼だけに見えた32:47:36)
【死神の眼】
死神、と言うやつは難儀なもので、親しかろうとそうでなかろうと、他人の寿命というやつを認知することができてしまう。
とはいえ、眼に入ったもの全員の寿命がその場で瞬時に見取れるわけではない、死ぬ時のタイミングなどそれこそ生まれるときと同じように、ひとりひとり一分一秒違うものなのだから、いくらなんでも全員の管理など出来るはずもない。
ただ、「ああ、この人もうすぐ死ぬな」とか、そういったものは感覚として理解できるのと、本当に死期が近い者の死亡時刻は、時限タイマーのようにその人の頭上辺りに見えたりもしてくる。
(細かく言えば一応、寿命が遠い人の死期も、調べようと思えば調べられる。死神の持つ時計もその一種なのだが、死期が遠いものに関しては直接仕事にかかわりがないことなので、調べる必要がほとんどないためいちいち確認する死神はいない)
だから、出会ったときに「もうすぐ死ぬな」と感じたものとは死神はあまり深くかかわろうとはしない。親しいものの死と言うやつは、それを生業としている死神にだって、あまり直面したくはないものなのだ。
それでも何にだって例外と言うものは存在するもので。
「あ!いたいたグリープ!!」
良く通る、空気を割るような音が響いてグリープは閉じていた瞼をぼんやりと開く。
天気が良い昼下がり、公園のベンチで空気を楽しんでいるうちにいつの間にか寝ていたのかもしれない。記憶があいまいなのは、寝不足、というか、これは多分体力不足のせいだ。
24時間365日、人の生き死にに休業は存在しない。
年中無休な死神という職業柄、実のところグリープの生命活動維持自身に、睡眠というものは必要とされていない。
だが、それは寝れないというわけではなく、寝なくてもいい、というだけで、疲れるとさすがに眠くはなる。体力回復のために一番手っ取り早い方法は、死神とて睡眠だ。
ここのところどうにも事故やら事件やらが多くて、死神界はてんやわんやだった。不思議と死亡者が多く、それらのどれもが人間ではないという異常性もあり、グリープの本来の持ち場である人間用の冥界の門にも死亡した魔物の魂が大量に流れ込んできたものだから、それをさばくのに追われていた。かれこれ、たしか、5日は寝ていないような気がする。
さらには元来の仕事に加えて、やれクエストに行こうだ何だと引っ張り出されている。さっきも丁度1回転、同色のメンバーで出かけてきた後で、やっと一息ついたところなのだ。
前倒しで仕事をつめたのだからしばらくはオフ、と決め込んで公園で久しぶりの下界の空気を吸っていたときのこと。
その声は疲れたグリープの耳にも心地よく届いた。
「声、でけぇよヘド」
「ははっ、わりーわりー」
「ねむいんだけどー」
開きかけた瞼をもう一度閉じながらグリープが声の主に告げると、言われたヘドは大して悪びれた様子もなく豪快に笑い飛ばす。
もっとも、グリープも声がでかいとは言ったが五月蠅いとは言っていない。声をかけてきた彼はもともと声がいい。いわゆる今流行りらしい「イケ声」というわけではないが、声自体に妙なクセがなくあっさりとして、それでいてほどよく低く通る声が耳に心地いい。
ただ、彼の声の最大の魅力は、彼が歌うたいだというところだ。
しっかりとトレーニングのされているその声の発声ひとつで震える空気は、聞いたものの意識を充分に惹きつける力を持っている。
さらにいうなら、古くから「歌」というやつは、人の「想い」、ひいては「魂」を届けるのに適しているものだ。その性質からか、グリープはその歌を乗せる声が好きだった。
彼の声は感情が分かりやすい。現に先ほどから視線を落として眼を合わせていなくても、彼が今上機嫌だということが分かる。
「なんか、いいことでも?」
「お、分かる?さすがグリープ」
カラカラと元気よく笑う声に少しだけ微笑んで、言葉の先を促す。彼との付き合いも何だかんだで結構になる。
「明日ライブやるんだけどさ」
「へぇ、バンドのみんなで?」
「そうそう、それでさ、その時にすげぇゲストが来るらしいんだよ」
彼は悪魔であり、自身の立ち上げたロックバンドの一員だ。
元々彼との出会いはこの下界、グリープがプワープに来たばかりの頃だ。
たしかグリープがイベントか何かで来た前後に、丁度彼も別のイベントで来たばかりだったのだ。当時、自分には種族は違えど先行の知人仲間がいたが、彼はバンドのメンバーの中で一番先にこの世界に来ていて、仲間がいなかった、から、ちょうど近くにいた自分と仲良くなったとか、そういう流れだったと思う。
タイミングが似ていた、ただそれだけなのだが、それも仕事で言えば「同期」みたいなやつである。良くも悪くもつるむにはちょうど良かった。
そう、それこそ、彼は悪魔という長命の種族だし、基本的に悪魔と言うやつは死神に偏見も持っていないし、なにより死期も見えなかったし。
「ゲストって?」
思い出から一度意識を戻して、話をつなげながら、視線を上げたグリープが、しかしそこで一度動きを止めることになる。
『32:47:36』
「…………え?」
見えた。彼の。ヘドの頭上に。はっきりと。グリープにしか分からない文字で。
「ん、ああ、すげぇっていっても音楽やってねぇとわかんねぇか」
グリープが思わず吐いた言葉を、自分の発言が理解できなかったためと取ったか、ヘドが言葉を補足する。
だが、グリープは正直その先の説明はほとんど頭に入っていなかった。
だって、視えたのだ。それが。
死期が近いものにしか現れないはずのそれが。
(え、なん……?)
グリープの動きと思考回路が一瞬とまる。だが、珍しく大きく聞こえる自分の心臓の音に、再度思考回路を働かせた。感情とは裏腹に酷く冷静に、すばやく現状の分析を始める。
32:47:36。
そこに出たのは単純にその人の命の残り時間である。
32時間47分と、あれから少し数字が進んで今はあと2秒。
1日と、8時間45分程度。
今が昼の12時半だから、明日の9時頃。
それが、死神が視た目の前の悪魔の死期だ。
今まで、寿命からは程遠く、何でもなかったその人の頭上に、突然死神に死期が見えるようになるという事例は、当然のことながら存在する。
誰かの明確な意思による『事件』か、多くの意思が重なって起きる『不慮の事故』か。
事件に関しては分かりやすい。
何かを『きっかけ』として、誰かが明確な殺意をもって彼を『殺そう』と思い、計画し、それが『実行』されればそれが『死期』だ。その場合計画が立った時点で死期が見えるようになる。
ただし、当然と言えば当然だが、最終的にその計画が失敗する場合は死期は視えない。
もう一つは事故である。
こちらの場合は少し複雑で、死亡する環境と本人の意思が死亡条件に合致すれば、その意思を決定した時点で死期が確定する。
プワープにはほとんど無いが、例えば「死亡率80%の遺跡」があるとする。とある魔導師は、昨日まではそこに行くつもりがなかったが、今日たまたま、そこにすごい魔導アイテムがあるという情報を得て、挑む決意をした。その魔導師がその遺跡の中で死ぬ場合は、彼が『行こう』と決めた瞬間に死神には死期が見えるようになる。
ある意味未来予知ともとれるその死神の死期を視る能力は、当然ながら厳しい制約が存在する。
当然ながら、視えるからといってそれを回避する行動をとってはいけない。
先の例でいえば、明確な殺意を持った相手を、死神が先に殺してしまえば『殺されるはずだった彼』の死期は消えるし、遺跡に行こうとしていた相手をどうにか説得して行かないようにすればこちらも死期は消える。
だが、それは当然死神の制約に反するのだ。
当然だ、そんなことをしてしまえたら人の生死をそれこそ死神が決めることになるし、何より人の運命の流れを乱す行為は世界の秩序の毒になる。
それをした死神は、死神の称号を剥奪されるか、最悪は、当人が消滅する。
「……へ、ぇ、それで、そのライブって、いつやるんだ?」
だからグリープはきわめて自然に、話の流れがおかしくないように会話を続けた。
元来なら、死期が近づいた者に対して、死神が何かアクションを起こすことは禁じられている、が、別にそれが通常の会話の流れであれば問題はない。
どちらにしても、現状をもう少し絞り込みたい。グリープは通常の会話の流れの範疇を超えないように、言葉を選びながら会話を進める。
「明日!夜にやるから、暇ならお前も来ていいぜ?」
「急だなおい」
明日の夜。
彼の言うライブは、いわゆるコンサートや大きな公演とは違って、同じ趣味をした仲間が集まって小さなライブハウスでやるようなものだ。その場合時間的には比較的遅め、場合によっては夜中までやる。
となると、必然。
おそらく、そこが彼の死に場所で、ライブをすることになったのが『きっかけ』だ。
グリープは視線を落とした。思考を巡らせる。
どうする。どうしたらいい。
「だって最近お前仕事かなんかで会ってねぇから知らせはぐったんだよ」
言われて思い出す。あぁそういえばここに来るのはほぼ一週間ぶりくらいだ。
そういえば、先ほど、同色でクエストに出かけたとき、彼と同じバンドのぺルヴィスに会ったが、彼女に死期は視えなかった。
ライブを決めたのはもう少し前だろうから、場所で言う条件は彼女も同じはず。
(ヘドは死ぬけどぺルは死なない……?他のやつはどうなんだ?)
知りたい、というよりは情報が足りなさすぎるが、グリープ自身が積極的に動くのはまずい。
どうにか自然な流れで他のメンバーの状況を知ることはできないだろうかと思うが、そろそろ思考回路が焦りで正常に動かなくなってくる。
どうにか、するべきではないと、死神の本能が全力で告げている。
死神に見えてしまった死期は、それはもう運命だ、死神の手を直接受けずに覆すなんて無理な話だし、自分で手を出すにはリスクが高すぎる。
だけど、死なせたくなんかなかった。